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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)106号 判決

上告人 原田清一郎

被上告人 新潟税務署長

訴訟代理人 真鍋薫 外三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松井道夫の上告理由第一点及び第三点について。

論旨は、本件「修正申告による課税」処分無効確認の訴えを不適法とした原審の判断に、申告による納税額確定に関する法解釈を誤り、ひいては本訴請求の趣旨を誤認し、釈明義務に違反し、判断を遺脱した違法がある、という。

本件訴えは、修正申告そのものの無効確認を求めるものではなく、「修正申告による課税」処分の無効確認を求めるものであること、記録上明らかである。ところが、申告納税方式をとる所得税にあつては、納付すべき税額は、納税者の申告があれば、特に税務署長において更正をする場合を除き、その申告によつて確定し、納税者は申告に係る税額を納付すべき義務を負担するにいたるのであつて、所論のごとく、申告による課税処分なるものが行なわれるものではなく、またそれによつて税額が確定されるというわけではない。それ故、本件「修正申告による課税」処分無効確認の訴えは、法律上存在し得ない処分の取消しを求めるものであつて、不適法といわざるを得ない。

されば、右訴えを不適法とした原審の判断に、本訴請求の趣旨を申告自体の無効確認を求めるものと誤認した違法があるとはいえ、その結論は、正当であり、また、その余の所論違法は、叙上に反する独自の見解に立脚するものであつて前提を欠くに帰し、論旨は、排斥を免かれない。

同第二点について。

論旨は、本件更正処分無効確認の訴えを不適法とした原審の判断に訴えの利益の解釈・適用を誤つた違法がある、という。

しかし、本件更生処分無効確認の訴えは、それに適用されるべき行政事件訴訟法(同法附則八条一項参照)三六条が無効等確認の訴えの提起を許した場合に該当しないこと明らかであり、また、仮りにこれを租税債務の不存在の確認を求める訴えであるとみても、当該法律関係の帰属主体たる国を被告とするものでないから、所詮、不適法な訴として排斥を免かれないといわざるを得ない。

されば、論旨は、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令違背を主張するものではないから、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人松井道夫の上告理由

第一、原判決には所得税法による申告納税の制度に関する法律の解釈を誤つた違法がある。

(一) 所得税施行地に住所を有し一定の要件に当る者は所得税を納める義務を有しその所得に対し所得税を課せられる(所得税法第一、二条)。

所得税を課することは国のその住民に対する権力関係であることは勿論である。

(二) 申告は国と納税者との間の納税契約ではない、国による納税額の確定行為であつて納税者は所得税法により申告を強制され申告は国による納税額確定行為の要件とされ乃至その内容を組成しているに過ぎない。

即ち納税者による申告書の提供と国による之が受理により国の納税額の確定行為は一応終了し納税者の当該年度の所得税額が確定するのである。

(三) 右納税額の確定行為は国による処分の性質を有することは明かであつて唯法律上私人の行為がその内容を構成する特種の場合に当るに過ぎない。

所得税法により右申告をさせ之を受理することを主管するものは本件の場合税務署長であつて行政事件訴訟法上右納税額確定行為の国の代行者は税務署長と解して何等差支えないであろう。

(四) 上告人は原審に於て「上告人が昭和三六年七月一日被上告人に対し上告人の昭和三五年度所得税についてなした修正確定申告及被上告人が同年一一月二四日上告人に対してなした更正処分による課税はいずれも無効であることを確認する」との判決を求めた。

上告人は昭和三六年七月一日為した申告による課税(国による納税額確定行為)の無効であることの確認を求めたもので本訴訟が抗告訴訟として為されたものである限りそれは自明なことである(控訴審に於ける上告人の準備書面其の他弁論の全趣旨により明かであろう)又右控訴の趣旨に於ける文章も決して不当ではなく誤解を生ずるとは思えない。

然るに原判決は上告人が申告自体の無効確認を求めたかの如き判示を為している若し真実原審がかくの如き誤解に立つて判決をしたものであるとすれば既に此の点に於て原判決は破棄を免れない。

(五) 原判決は結局所得税法に於ける納税者の申告による納税額の確定に関する法律の解釈を誤り右申告による課税が処分の性質を有しないものと誤解し上告人の訴を却下した違法がある(少くとも処分に準ずるものとしても無効確認の訴の目的となるものと解すべきである)。

第二、原審が本件更正決定による課税の無効確認を求める訴を却下したのは違法である。

(一) 本訴に於て上告人が修正申請による課税と、更正決定による課税の両者について無効確認を求めた理由は本来ならば最終の課税行為(納税額確定行為)である更正決定の無効確認にて足ると解したのであるが(訴状参照)被上告指定代理人等は更正決定が無効であればその前の修正申請による課税が復活すると解釈すると述べたので後に修正申告による課税の無効確認をも附加したものである。

(二) 元来右更正決定が無効であるというのは右更正決定は修正申告による課税を更正したものであるところ右修正申告は上告人の意思によらないものであり修正申告として無効のものであり従つて之による課税は無効であり之を更正した更正決定による課税も亦無効であるとの趣旨である。

(三) 原判決は減額更正であるから無効確認の利益はないと判示するが上告人は減額につき無効確認を求めているのでなく更正決定の成立に関する無効を主張しているのであるから無効確認の利益を有することは言を待たない。

(四) 本件修正申告による課税は更正決定により一応失効し更正決定による課税のみが残存すると解すべきであるが更正決定による課税が無効とされた場合に修正申告による課税が復活するものと被上告人により解される余地がある以上(而かも両者の無効は真の原因を一つにしている)修正申告による課税の無効確認を併せ求める利益が存するものと信ずる。

(五) 何れにしても更正決定による課税の無効確認を求める利益なしとして却下した原判決は法律の解釈を誤つたものである。

第三、原判決には上告人の請求を誤解し申立てた事項に付判断を為さず申立てない事項について判断を為し上告人の不利益の判決をした違法がある。

(一) 前述の如く上告人は本件に於て本件修正申告による課税の無効確認を求めたのに原判決は修正申告自体の無効確認を求める訴と誤解し斯る事項の無効確認を求めることは不適法であるとして上告人の請求を却下した。

(二) 上告人は本件修正申告は上告人の意思によらないものであるから(無効で)之による課税は無効であると主張したものであることは上告人の第一審に於ける昭和三八年一二月九日附弁論再開申請書第(一)(二)項、原審に於ける昭和三九年七月二一日附準備書面第一の(一)に明記されあるのみならず、本件訴訟が行政事件訴訟法による抗告訴訟(無効確認の訴)であること、その他弁論の全趣旨により明白である、仮に多少不明確であるとするならば釈明権の行使により直に明瞭になる筈である、控訴の趣旨に於ても明かに上告人の請求は判る筈である。

(三) 原判決は上告人の本件修正申告による課税の無効確認の請求について何等の判断をしていないから本判決は破棄を免れない。

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